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「先生になりたい」高校生の夢を応援! 「桜ACEプログラム」の授業体験に密着

横浜市立高校で2023年度から始まった「教員養成講座〜桜ACEプログラム〜」をご存じでしょうか。普通科の学習内容に加え、教職に関する科目を履修できるプログラムです。
横浜市立桜丘高等学校では、2024年10月に、プログラムの一つである「小学校教諭体験」が実施されました。未来の先生たちの奮闘ぶりを、編集部が取材しました!


「先生になりたい」を「将来」へつなぐ

近年、教員採用試験の応募者数は全国的に減少傾向にあります。一方で、さまざまな企業が実施している中高生向けの「将来の夢ランキング」では、「教員」が上位にランキングしているのです。
「教員養成講座〜桜ACEプログラム〜」は、「先生になりたい」という思いをもつ子どもたちの夢を、現実のものにするための第一歩。

本プログラムに参加する桜丘高等学校の高校生は、一学年に30名ほど。週に1回、「7時間目」として設定された講座に集まります。講座の内容は、課題を探究する体験型プログラム。

横浜国立大学教育学部との協力・連携のもと講座を実施。また市内の小中学校や特別支援学校と連携し、さまざまな体験学習が組まれています(出典:桜丘高等学校 教員養成講座紹介チラシ)

「教員養成講座」が桜丘高校入学のきっかけに

10月22日に横浜市立桜台小学校で先生として教壇に立ったのは、「教員養成講座〜桜ACEプログラム〜」の第1期生である高校2年生。夏頃から4〜5人ずつのグループに分かれて準備を重ね、ついにこの日を迎えました。

今回の取材では、小学校3年生の英語を担当した武内 杏寿さん、成田 奈生さん、藤澤 明輝さん、村中 紫さんの4人からなるグループに密着。皆さんは高校入学前にこの「教員養成講座」が新設されることを知り、それが桜丘高等学校入学への志望動機にもなったそう。
4人とも以前から教員を目指していたのは同じですが、「先生」という仕事に興味をもったきっかけはさまざまです。

藤澤さん

「僕は、友だちに勉強を教えた経験がきっかけです」と語るのは、藤澤さん。
「もともと小学生のときから友だちに算数などを教える機会が多かったんです。友だちが理解してくれたらうれしいし、教えること自体も楽しかったので、向いているのかなと思いました」

村中さん

村中さんは、「教員に関心があったのに加え、新しいことに挑戦してみたい気持ちが湧いて」と話します。
「小学校6年生の最後が、ちょうどコロナの時期で、卒業する1か月前は全く登校できない状態。そのときに、あらためて小学校生活の楽しさを実感したんです。『学校に行くことが楽しい』と思えた授業や学校生活をつくってくれていた先生に憧れをもちました」

成田さん

小学生のときに学級でつらい経験をして、そのときに支えてくれた先生が教員を目指すきっかけになったと話すのは、成田さん。
「学級が荒れて、いじめもありました。担任や副担任にも相談しましたが、他クラスの先生が親身になって話を聞いてくれ、仲裁をしてくれて、過ごしやすい環境になったんです。自分がそうしてもらったように、クラスに関係なく困っている生徒がいたら寄り添える先生になりたいと思いました」

武内さん

「一番身近な職業が教員だった」と笑うのは、武内さん。
「家族に教員が多いんです。中学校では生徒会長をしていたので、先生たちと関わる機会も多く、自然と教える立場にひかれていきました。特に、目指しているのは中学校の教員。小学校以上に勉強が得意、苦手が生まれやすい時期でもあり、さまざまな生徒が一緒に過ごす中学校生活は大事な時期だと思います。生徒たちがこれから進む先に、なんらかの影響を与えることができたらいいなと」

初めて”先生”になってみて・・・?

それぞれの経験から、子どもたちの気持ちに寄り添う教員になりたいと考える“高校生先生”たち。小学校での教諭体験では、「友だちのすきな色を聞こう―What color do you like?」をテーマに、5人がそれぞれの主担当パートをもち、45分間の授業を行いました。

テーマはいつでも振り返られるように大きく黒板へ。授業中盤で再確認する時間も設けられました

最初はアイスブレイク。
じゃんけんや、高校生先生たちの名前当てクイズです。緊張をほぐし、場の一体感をつくります。その後、「チャンツ」(リズムに合わせて英単語や英文を発音する英語学習法)や「かるたゲーム」、「友だちの好きな色を聞いて回るインタビュー」などで授業が進みます。

チャンツ担当の藤澤さんは、リズムに乗せて歌いながら、好きなものを伝える表現で盛り上げ

小学生が答えたり発表したりするたびに、高校生先生たちが発する「Amazing」「Fantastic」などの声がけが、印象に残りました。
横浜市は、ACEプログラムの充実をはじめとして、教員を目指す高校生を支援するために横浜国立大学と連携していますが、実は、こういう積極的な声がけは、今回の授業をつくる準備段階で、横浜国立大学の先生のアドバイスをヒントに、授業を盛り上げるテクニックとして取り組んだものでした。

「『褒める言葉のバリエーション』をもっておくといいよとアドバイスをいただきました。たとえ小学生たちがその意味をわからなくても、『OK』『Good』だけでなく、いろんな褒め言葉を使って児童に声をかけてあげることで、楽しさが伝わり広がるからと」(村中さん)

村中さんはリアクションを欠かさず、「あなたの話聞きましたよとアピールすること」も意識

また、小学生たちの活気に満ちた教室の雰囲気もとても印象的でした。
高校生先生たちは、小学生たちからもたくさん反応が返ってきてうれしい気持ちと同時に、問いかけに対してほぼ全員が手を挙げてくれた場面では、誰に答えてもらうかを戸惑う瞬間もあったと言います。
「こういうのって、リハーサルではわからない。実際の授業をとおしてでないと得られない経験でした」(藤澤さん)

「What color do you like?」と問いかける成田さん
手を挙げてあてられた児童は、黒板の前で自分の好きな色を発表しました

この日一番盛り上がったのは、かるたゲーム。班ごとに10色のカードが並べられ、小学生全員で先生に「What color do you like?」と問いかけ、先生が答えた色のカードを取り合います。

正しい答えをみんなで確認して、かるたをしながらフレーズの練習も
白熱してかるたのルールつい忘れてしまう子にも、高校生先生たちがジェスチャーで伝えます
「まず先生である自分たちが楽しむこと」を大事にしたそう
児童とのコミュニケーションもばっちり

大変さとともに知った「授業をつくることの面白さ」

その様子を見守った教員養成講座の担当教員の一人で、その構想段階から携わる矢野 文明 先生は、授業が終わったあと、こんな感想を。
「想像していた以上に本当にいい授業をしてくれた。2年生で体験する今日のプログラムを一つの大きな目標にしていたこともあり、みんなの頑張りについ目頭が熱くなりました」

「担当教員も『チーム』の一員として高校生先生たちを支えています」と振り返る矢野先生

矢野先生とともに担当教員を務める秋山 尚子 先生は、「教科を教えること以前に、児童とふれあうことや授業をすること自体を楽しんでもらいたいというのがコンセプトだったんです。そしてもう一つ、『授業をつくることの面白さ』も学んでほしいなと思っていました」と振り返ります。

「英語学習と授業の楽しさそのものを学ぶことのバランスをとるのが大変でした」と秋山先生(右)

そんな「授業をつくる」ための準備期間中、「先生にいっぱい助けられた」と、無事授業を終えてほっと安堵の表情を浮かべる村中さん。「そうそう、相談や愚痴にも毎回つき合ってくれて」と武内さんが続け、さらに、皆「チームで頑張った期間だった」と充実した様子。

「『あの時こうすれば』という反省点はいろいろありますが、やはり達成感が大きいですね。求められているものとやろうとしていたことのギャップから、準備がなかなかうまくいかなくて、気持ちがいっぱいいっぱいになってしまったこともありました。でも、みんなで協力してやりきった。チームだからこそできた授業だったと思います」(武内さん)

これまでのプログラムを振り返って

あたたかな視線を注ぎながら、4人の話に耳を傾ける矢野先生。
「指導教員としては、生徒たちが負担に感じるときもあっただろうという反省点はありますが、今日、彼らが授業をしている姿を見て、この教員養成講座のプログラムでの学びの積み重ねがうまくいったのかなと感じています」

1年生からのプログラムを振り返り、成田さんはこう話します。
「正直、1年生のときのプログラムでは、『これって意味があるのかな?』と感じてしまったときもあったんです。2年生ではそれまでやってきたことをだんだんと活用できるようになり、そして今日を迎えられました。授業では、小学生たちが楽しそうに授業を受けてくれて、とてもやりやすかったです。一方で、楽しくなりすぎて、話をきいてもらいたいときの流れをうまくつくれなかった。そういうときはどうしたらいいんだろう?」
座学だけでなく、体験をきっかけに課題を見つけていくのも、この養成プログラムが大切にしているところ。

これから進む道を試行錯誤しながら、よいものにしていこうと取り組む高校生たちと、その指導教員の生き生きとした表情が素敵でした。

高校生先生たちが夢をかたちにするその日が楽しみです。ヨコエデュ編集部一同、応援しています!

<この記事を書いた人>
ヨコエデュ編集部 うみねこ
趣味は散歩。すこし足を延ばして馴染みのない町を歩くことにはまっている。