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もうひとつの”SNS” 学校生活をマンガにしたら、先生と生徒の交流が生まれた
JR山手駅から歩いて5分ほど、「横浜市立仲尾台中学校」は横浜市の東端にあります。高台に建てられた校舎の窓からは、みなとみらいやベイブリッジが見える。
そんな仲尾台中学校に、学校生活をマンガで描く先生がいると聞き、9月の某日、ヨコエデュ編集部が訪問しました!
何気ない日常のひとコマが、ありありと綴られたマンガのノート。そこには生徒からコメントが寄せられたり、先生が返したりと、さながらリアルなSNSといった交流が生まれていたのです。
生徒たちの”素敵”は、何気ない日常にひそんでいる
生徒たちの学校での生活を、マンガにして発信しているのは、1年生の学年主任・小田原 誠 先生です。「学年日記」と題されたマンガは、ノートの1ページに1話ずつ描かれます。更新はほぼ毎日。2024年のマンガも、すでに100話を超えました。1年生フロアの踊り場に置かれている「学年日記」。生徒たちも休み時間に読むのを楽しみにしています。
小田原先生がマンガを描きはじめたのは、仲尾台中学校に赴任するずっと前から。教員になって、初めて担任をもったときに始めた「学級日記」が原点でした。
日直がその日の出来事や思いを記入し、それに先生が赤ペンで答えるスタイルでスタートしたものが、いつしか先生は返答を自分の似顔絵と吹き出しで表現するようになったと言います。それがだんだんと4コママンガになり、20年ほど前から、今のスタイルへ変わっていきました。
「マンガのネタは、たとえば『女性の先生と、女子生徒2名が教室で女子会をしていた』といった、ほんとうに何気ない日常のひとコマです。でもそういった日常にこそ、生徒たちの素敵な姿があると思っていて。そういった部分が広まっていくといいなと思って続けています」
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「いまはネタが尽きないぞ」
小田原先生が学年主任を務めるのは15年ぶり。担任を務めているときは、自分のクラスの中を見ていればいいので、共有しやすいエピソードがあったり、生徒たちの深い部分を表現できる一方、今の立場では、生徒一人ひとりをじっくり観察することが難しいと、小田原先生は話します。前に学年主任を務めていたときは、年間で16話しか描けなかったそうですが、今年はすでに100話越え。どんな変化があったのでしょうか。
「今回は毎日描けている。あ、これが自分の成長なんだ、と思いました。生徒たちを多角的に見られるようになったのかもしれません。何を描こうかと生徒たちを見ている時間も、楽しんでいます」
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生徒同士の交流も生むマンガノート
マンガノートには、生徒たちが自由にコメントを書きこめるスペースも設けられています。
「言いっぱなしにならないように、必ず記名することと、ネガティブな内容は書かないことを最初に約束しました。コメントの内容は、SNSのショートメッセージのような感覚だと思います。マンガや僕に対するメッセージもありますが、『いまこんなドラマがあるので、みんな見てください』など、ほかの生徒にも共有できるコメントが多いですね」
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生徒と先生にとって、一種のSNSのような存在になっているマンガノート。寄せられたコメントのなかには、こんな一文も。「先生のファンクラブをつくりたいです」。これを書いたのは、週に3回ほどコメントを書いている白石さんです。
「一つの娯楽みたいなものですかね。マンガの中で『ヘボン式ローマ字発祥の場所は横浜』などといった豆知識が出てくることもあって、学びにもなるんです」と顔をほころばせる白石さん。
その表情を見て、「唯一のファンクラブ会員だよね、白石くんが(笑)。いちばんコメントを書いてくれているんじゃないかな」と嬉しそうな小田原先生。
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生徒同士の交流も生まれています。マンガをとおして仲良くなった友達がいると話してくれたのは、齊藤さん。仲尾台中学校は、主に3つの小学校から生徒が進学しており、齊藤さんは「ほかの小学校の人とは最初はあんまり馴染めなかった」と言います。
「でも、マンガを毎日見に行くようになると、自然と会話するようになりました。あと、マンガは私があまり関わらない友だちのエピソードも書かれているから、いろんなことを知れるし、学校生活を振り返れるのが楽しいです」
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「齊藤さんもよくコメントをくれるし、その内容があったかいんですよ。応援するコメントをくれたり、自分の身の回りのことを書いてくれたり。それも、いつも授業や学校生活にリンクした内容を書いてくれるんです」と話す小田原先生も、生徒同士のマンガを通した交流には驚いた様子でした。
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先生たちの学び合い
横浜市の学校では、「チーム学校」として、役割の違う教職員が連携する体制を整えています。仲尾台中学校にも、学年主任である小田原先生を中心に、支え合い、学び合うチームがありました。
全学年の英語の授業を週に一回担当しているAET(英語指導助手)のフランチェスコ=ボタ先生は、マンガノートに影響を受けて絵を描くようになったと言います。
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「マンガにでてくる人たちが、みんな実際の生徒や先生に似ているんです。笑えるし、感動もする。僕も授業中、黒板に絵を描くようになって、生徒を楽しませることができるようになったと思います。生徒たちも、ここからなにかインスパイアされるんじゃないかな」
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国語担当の本田理香先生は、最初にマンガを見たとき、「包み込むようなあたたかさに感激した」とにっこり。
「よく1学年の先生同士でいろんな話を共有するのですが、教員も人間なのでついつい後ろ向きになることもあります。そんなときに小田原先生から『この生徒はこういういいところがあるんですよ』と言ってもらって、気づきを得ることが何度もありました」
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「見る角度なんですよね」と小田原先生。「いろいろな視点で見てみる、接してみる。また、生徒がどんなことを言っていても、まずは一度受け止める。これが熟練の技として身につきました。私は生徒との交流があるから、この仕事をやっています」。
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人が人を元気にする環境づくり
実は、小田原先生は網膜色素変性症という病気を抱えています。暗いところだと見えない、だんだんと視野が狭くなるといった症状があり、先生の現在の視野は8度ほど。ふだん学校の外では白杖を使って生活しています。
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「いつかは全盲になってしまうかもしれない病気で、治療法もない。そのなかで自分が学校の先生をやる意味ってなんだろうと考えたとき、障害を理由にできないことばかりを数えるのではなく、『できることがあるよ』という姿を見せたいと思いました。また、たとえばカバンが机の横にあると歩きづらい、階段を右側通行にしてくれると歩きやすい、挨拶や発言は名前を言ってほしいなど、健常者だけの世界で生きていると気づけないことがあると思います。それを、身をもって伝えられているかな」
授業中、誰かが発言しようとしたことに小田原先生が気づけなかったときは、生徒たちが「先生、〇〇くんが手をあげています」と教えてくれることもあるそう。
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「学校では、人が人に関心をもつことから“環境”が生まれます。教師として生徒たちに力や夢を与えたいという思いで頑張っていると、子どもたちから逆に力をもらえたりする。生徒にも教員にも、誰かが何かをやったことに対して、リアクションすることを忘れないでほしいと思います。そのリアクションがつながっていくことで、人との関係が楽しくなるし、楽にもなる。その体現の一つとして、僕はマンガを描いているんだと思います」
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学校は、実は”ちょっと楽しくなる”物語で溢れています。そこから生まれたマンガから、また新しい物語が紡がれていくように感じられた今回の取材。
先生と生徒の交流、先生同士のコミュニケーションの方法は、学校ごとにいろいろな工夫やアイデアがあるんですね。
これからこのnoteをとおして、横浜の学校のさまざまな取り組みをお届けしていきます!
<この記事を書いた人>
ヨコエデュ編集部 うみねこ
趣味は散歩。すこし足を延ばして馴染みのない町を歩くことにはまっている。